「引き渡しまで、あと一週間なんですが……給湯器からお湯が出なくなりました」
売却のお手伝いをしていたお客様から、慌てた様子でお電話をいただきました。
引っ越しの片づけを終え、最後の掃除をしていたときに気づいたそうです。数日前までは使えていたため、お客様も戸惑っていらっしゃいました。
「買う方には、問題なく使えると伝えています。このままだと、引き渡しができなくなるんでしょうか」
中古住宅の引き渡し直前に設備が故障した場合は、まず仲介担当者に連絡し、契約書・付帯設備表の内容と、実際の故障状況を確認します。そのうえで、買い手と修理方法、費用負担、日程を調整することが大切です。
今回も、先に交換を決めるのではなく、確認できることから一つずつ整理しました。
最初に確認したのは、故障の症状と契約内容
お電話では、いつ不具合に気づいたか、どの操作でお湯が出なかったか、リモコンに表示があるかを伺いました。
エラー表示は写真で残していただき、給湯器のメーカーと型番も確認します。原因はまだ分からないため、この時点では「本体が壊れた」「交換が必要」とは決めつけません。
続いて、売買契約書と付帯設備表を確認しました。
付帯設備表は、給湯器やエアコンなどについて、引き渡す設備や故障・不具合の状況を整理する書類です。設備の扱いを確認する際には、契約書とあわせて読み取る必要があります。
今回の事例では、給湯器は残す設備で、不具合は「無」と記載されていました。また、引き渡しまでに発生した故障について、売主が修理して引き渡す旨の取り決めがありました。
「設備表を書いたときには、本当に使えていたんです」
「そのときの状態と、今回分かったことを分けて記録しましょう。まずは点検の手配を進めます」
過去の記載だけを見て話を止めず、現在の状態に合わせた対応が必要でした。
買い手への連絡は、修理の結論を待たずに
お客様が心配されていたのは、買い手の反応でした。
「修理できると分かってから伝えた方が、心配をかけずに済みませんか」
お気持ちは分かります。ただ、買い手にも引っ越しや入居の予定があります。連絡が遅れるほど、選べる対応が少なくなるかもしれません。
そこで、仲介担当者を通じて、故障が判明したこと、業者に点検を依頼していること、原因や復旧時期はまだ未確定であることをお伝えしました。
「予定どおり直ります」と約束するのではなく、次にいつ状況を報告するかも共有します。
買い手からは、
「引っ越した日からお風呂を使いたいので、修理の見込みが分かったら教えてください」
とのお返事がありました。
何を優先して調整すべきかが、ここではっきりしました。
修理できるか、交換が必要かを業者に確認
点検では、不具合の原因、修理方法、部品の手配、作業可能日、見積額を確認しました。
設備が古いからといって、必ず交換になるわけではありません。一方で、修理できても部品の取り寄せに時間がかかる場合があります。費用と日数の両方を確かめる必要があります。
今回の架空の事例では、部品交換で復旧できる見込みとなり、引き渡しの二日前に作業できることが分かりました。
お客様は、ようやく少し安心された様子でした。
「それなら、修理をお願いすれば終わりですね」
ただ、作業予約が取れたことと、正常に使えるようになったことは別です。修理後の動作確認と、買い手への報告まで予定に入れました。
修理費用は、古さだけで決めない
設備故障では、「中古なのだから買い手が負担する」「引き渡し前だから必ず売主が新品に交換する」と、一律に考えないことが大切です。
引き渡す設備としてどう合意していたか、故障への対応をどう定めていたかを確認し、必要な協議を行います。
今回のお客様は、契約の取り決めに沿って修理費用を負担することになりました。
一方、交換が必要なケースでは、機種や性能、費用の範囲についても確認が必要です。売主が独断で選んだり、買い手が希望する上位機種への交換を前提にしたりすると、話が食い違う可能性があります。
「誰が払うかだけではなく、どこまで対応するかも決めるんですね」
お客様の言葉にうなずきながら、見積書と作業内容を共有しました。
引き渡しに間に合わない場合はどうする?
今回は修理日を確保できましたが、部品の入荷が遅れれば、予定どおりに直らない可能性もありました。
その場合に備えて、引き渡し日を変更するのか、双方が合意したうえで引き渡し後に工事を行うのかなど、検討が必要になることもお伝えしました。
買い手が入居後に交換する方法を選ぶなら、費用の精算方法や対象範囲を明確にする必要があります。引き渡し後の工事なら、業者の手配、立ち会い、完了確認を誰が行うかまで決めておきます。
日程の変更は、引っ越しや融資の手続きにも影響するため、売主だけでは決められません。
合意した内容は、担当者を通じて書面に残すことにしました。
修理後は「直った」と聞くだけで終わらせない
予定していた日に修理が完了し、業者に作業内容を説明していただきました。
その後、お湯が出ることやリモコンの動作など、確認できる範囲で実際に確かめます。作業報告書、交換した部品の情報、保証に関する書類も保管しました。
買い手には、故障の症状、修理内容、確認結果をお伝えし、関係書類を引継ぎ資料に加えます。付帯設備表などへの追記方法も、担当者と確認しました。
「何も言わずに直しておけばいいと思っていました。でも、何を直したかまで分かる方が、買う人も安心ですね」
お客様は、報告書をファイルに収めながら話されました。
早い連絡と記録が、引き渡しの不安を減らす
引き渡し当日、買い手からは、
「入居前に対応していただいて助かりました。書類もあるので、後で確認できますね」
と声をかけていただきました。
設備は、引き渡し直前まで使えていても、突然不具合が出ることがあります。大切なのは、故障が起きたあとに、事実を共有して対応をそろえることです。
症状を記録する。契約内容を確認する。業者の見立てを取り、買い手と費用や日程を調整する。そして、合意と修理の記録を残す。
今回の引き渡しでは、その積み重ねが、お客様と買い手の双方が納得して次へ進むための支えになりました。