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マスターのブログ

2023.11.07 10:54

「川尻の実家、古すぎて売れないと思っています」——建物を残す場合と解体する場合、手取りを比べて見えたこと

「川尻にある実家なんですが、もう古すぎて売れないと思うんです」

査定のご相談をくださったお客様は、最初のお電話でそうおっしゃいました。

ご両親が暮らしていた家を相続したものの、ご自身の生活拠点は別の場所にあり、今後住む予定はないとのこと。空き家になってからは、ときどき窓を開けたり、庭の草を刈ったりするために通っていたそうです。

「行くたびに、どこか傷んでいる気がして。売るなら、先に壊して更地にするしかないですよね」

お客様の中では、すでに「古い家は売れない」「解体してから売る」という考えが、ほぼ固まっているようでした。

ただ、解体にはまとまった費用がかかります。一度壊すと、建物を残して売る選択肢には戻れません。まずは現地を拝見し、二つの方法を比べることにしました。

■古い家だからこそ、現地で確かめたいこと

査定当日、玄関の引き戸を開けると、廊下の先までやわらかな光が入っていました。

建物には年月相応の傷みがあり、壁紙の変色や水回りの古さも目につきます。一方で、室内は片づいていて、庭にも手を入れてきた様子が残っていました。

「ここ、昔は家族みんなで食事をしていたんです」

お客様が指さしたのは、庭に面した和室でした。

「夏休みには親戚も集まって。人が多いときは、隣の部屋まで襖を開けて使っていました」

家の話をされるうちに、お電話では聞けなかった思い出が少しずつ出てきました。

私は室内の状態に加え、敷地の形、道路との関係、隣地との境界の状況などを確認しました。建物については、目で見える範囲の確認だけで、安全性や修繕の必要性まで判断できるわけではありません。それでも、販売方法を考えるための材料は集められます。

「古さはあります。ただ、今の段階で『壊さなければ売れない』と決める必要はありません」

そうお伝えすると、お客様は少し驚いた表情をされました。

■売れる価格より、最後に残る金額を比べる

査定で大切にしたのは、建物を残す場合と解体する場合について、売却後の手取りまで並べることでした。

今回の比較では、仮に次のような条件を置きました。

【建物を残して売る場合】
売却価格:780万円
売却に伴う諸費用:40万円
家財の片づけ費用:30万円
差し引きの金額:710万円

【解体して更地で売る場合】
売却価格:1,000万円
売却に伴う諸費用:45万円
解体費用:220万円
家財の片づけ費用:25万円
差し引きの金額:710万円

売却価格だけを見ると、更地にする方が220万円高くなっています。しかし、解体費用などを差し引くと、この仮定では手元に残る金額は同じです。

なお、この比較には売却に伴う税金や保有中の支出などは含めていません。実際に判断するときは、お客様の状況と個別の見積もりに合わせて確認する必要があります。

「更地の方が高く売れるなら、壊した方が得だと思っていました」

数字を見ながら、お客様がつぶやかれました。

「価格が上がった分だけ、そのまま手取りが増えるわけではないんですね」

ここで初めて、話の中心が「古い家をどう処分するか」から、「どの方法なら納得して売れるか」に変わったように感じました。

■解体費用が変われば、比較の結果も変わる

もちろん、この数字だけで結論は出せません。

解体費用は、建物の大きさや構造、重機の入りやすさ、撤去するものの量などによって変わります。見積もりの対象や追加費用が発生する条件も、確認が必要です。

仮に解体費用が220万円ではなく270万円になれば、更地で売る場合の差し引き額は660万円になります。反対に、更地にすることで想定以上の価格で売れる見込みがあれば、解体する方が有利になる可能性もあります。

建物を残す場合にも、不確定な点はあります。購入希望者が修繕費用を見込んで価格交渉をするかもしれませんし、建物の状態を詳しく調べた結果、販売条件の見直しが必要になることも考えられます。

だからこそ、一つの査定額だけを見て決めるのではなく、価格と費用の両方に幅を持たせて考えることが大切です。

お客様には、解体の見積もりも取ったうえで、建物を残したまま販売する方法から検討することをご提案しました。

■「誰に向けて売るか」も考える

建物を残す場合は、古さを隠すのではなく、状態を伝えたうえで購入を検討してもらう必要があります。

そのまま住める家を探している方には合わなくても、修繕を前提に、広さや間取り、立地を重視する方なら検討の余地があるかもしれません。ただし、そうした買い手が必ず見つかると約束できるわけではありません。

「まずは建物がある状態で、どんな反応があるか確かめませんか。一定の期間でお問い合わせや内覧の状況を振り返り、価格や売り方を見直しましょう」

そうお話しすると、お客様は静かにうなずかれました。

「売れないと思っていたので、壊すお金をどう用意しようか、そればかり考えていました。順番を変えて考えてもいいんですね」

解体を先送りすれば必ず得になる、という話ではありません。売却までの時間や管理の負担も含めて、そのご家族に合う方法を選ぶことが大切です。今回のお客様は、急いで現金化する必要はなく、当面の管理も続けられるとのことでした。その事情も、建物を残して販売を始める判断につながりました。

■思い込みを、比較できる選択肢に変える

査定を終えて帰るとき、お客様が玄関先でおっしゃいました。

「母が大事にしていた家なので、壊すしかないと思うと、なかなか動けなかったんです。数字で比べてもらえて、ようやく考えられる気がします」

家を残すことだけが正解ではありません。建物の状態や土地の条件によっては、解体して売る方が進めやすい場合もあります。

ただ、「古すぎるから売れない」と感じていても、解体前に確かめられることはあります。

建物を残した場合にいくらで売れそうか。更地ならいくらを見込めるか。それぞれにどんな費用がかかり、最後にどれだけ残るのか。

川尻のご実家での査定は、その一つひとつを、お客様と同じ紙の上で比べる時間になりました。

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